ギャラリー『自遊四季』で“癒やし”の場を提供する 
幅広い人たちとのネットワークで地域を元気にする  村上巖(楽道)さん

 6年前、村上巖さん(73歳)は長年、生駒郡三郷町で従事した家業の工務店経営を息子さんに譲り引退、家業から身を引いた。とはいえ、村上さんは定年後の多くのお年寄りがやる、ゲートボールやウォーキングなどに多くの時間を費やすような日々を送っているわけではない。家業から身を引くことを決意した村上さんは、生駒郡斑鳩町法隆寺南で古い町家を借りて内部を改造し、ギャラリー『自遊四季』をオープンしたのだ。

 自遊四季には流木や廃材を使った様々な手作りの作品、手芸・民芸・伝統工芸品などが所狭しと並べられている。ギャラリー部分の広さは水回りなどを含めても7〜8坪と限られているが、ここに座っていると“ホッ”として心から癒され、またなぜか昔懐かしい気分になってくる。そんな、自然のままの素材、流木や廃材が醸し出す“やすらぎ”“ぬくもり”を求めて同好の様々な仲間がやってくる。

 村上さんは「ここ(自遊四季)はとりわけ若い人たちの場合、入りにくいんだそうです。ただ、一度入ってきた人は次からは気軽に訪ねて来られる」という。つまり一度入ると、即リピーターになるというわけだ。
 家業から身を引く2〜3年前、有志に呼びかけてNPO法人「アトリエマーケット」の立ち上げに協力し、木工をはじめとする様々な作品作りを楽しむ趣味のグループを結成した。いわば第2の人生の準備だったのだ。その後、家業から引退。以来、大工だった腕前をフルに活かし、いまは流木や廃材を使った作品作りでは同地域のリーダー格の村上さんは、様々な人とグループの人たちをつなぐ、世話役の一人でもある。

 それだけに、村上さんは様々なところで行われる作品展・イベントや会合にこまめに顔出しし、場合によっては物心両面での支援を惜しまない。そのため、村上さんの人的ネットワークは実に幅広い。
香芝市で「フーチャンおじさんの工房」を営む安田勝紀さん(63歳)と妻・博子さん(57歳)、仏像彫刻一筋38年の佛師・渡邊一空さん(60歳)、ボランティアで東北の民話、絵本、紙芝居などを学校、子供会、老人ホームへ出向き語る、語部(かたりべ)・川嶋敏子さん(61歳)、独特のほのぼのとしたタッチの絵が特徴の蔵馬工房の大久保雅生さん(53歳)ら、枚挙にいとまがない。

 村上さんはNPOについて「ピーク時には1000人くらいメンバーがいた。そのうちの百数十名は私が声をかけた人たちだった。でも、その人の置かれた環境や立場の違いで、やむなく抜けていった人も多い」という。その結果、現在会員はピーク時の5分の1ぐらいに減っているようだ。

 しかし、村上さんは決してへこむようなことはない。拠点の「自遊四季」では不定期だが、妻幸恵さん(63歳)の強力なサポートのもと「煎茶の会」や水野久子さん(90歳)が講師の「創作手まりの会」などを開いている。「最近では9月7日開いた川嶋さんの語りはとくに好評だった」という。スペースが限られているだけに、「30人もの人で身動きが取れず、予定を大幅に延長したほど、最高に盛り上がった」。だから、「語りの会はこれからもできる限り続けていく」と意欲的な村上さんだ。
●生駒郡斑鳩町法隆寺
 村上巌さん
●大阪府富田林市 
 川嶋敏子さん
●奈良市法蓮町 
 仏師 渡邊一空さん
●奈良県香芝市 
 安田勝紀・博子さん
●福岡県鞍手郡小竹町 
 村上哲史さん
写真左から安田夫妻、村上さんの奥様、村上さん、渡辺さん
知見探訪