ずーずー弁で笑いと感動を届ける
 
素朴でウィットに富んだ東北民話の語りべ  大阪府富田林市 川嶋敏子さん

 自らを“ずーずー弁のうめぼしばあちゃんずぅ”という川嶋敏子さん(61歳)は、東北地方の民話、絵本の読み聞かせ、紙芝居などを通じて、現代人が忘れ去った様々な戒めや教訓がちりばめられた艶話の語りべだ。宮城県石巻市出身の正真正銘、ずーずー弁の語りが大きな魅力のひとつだ。

 川嶋さんがいまの語りの原型をスタートさせたのは40歳を過ぎてから。それが現在では“知る人ぞ知る”存在となって、幼稚園、小・中・高校、大学の各学校、そして子供会、老人会、老人ホーム、介護デイサービスなどに、ボランティアで笑いと感動を届けている。最近の5年間で667回(07年10月21日現在)を数える語りの会を開いているほどの人気ぶりだ。
 
 10月21日、奈良県葛城市當麻の文晃堂本店ギャラリーでは津軽三味線奏者・亀谷英明氏ほか4名とのコラボレーションで行われた。日本全国でもすでにもうひとりもいなくなった“瞽女(ごぜ)さん”の話だったが、急遽、会場で実現した津軽三味線奏者の亀谷さんの伴奏が加わって、より感動的な語りの会となった。

 川嶋さんには民話・童話や、民話を題材にした様々なクイズなど50近くの話(ストック)があり、依頼あるいは要請により、季節・年齢(小学校なら学年)に応じて、それら対象年齢にふさわしい話を選択する。「中身はすべてお任せの場合もあれば、メニューを提示して事前打ち合わせするケースもある」という。

 「メディアなどではPR・告知など全くしたことはない」というが、「口コミで知った人から、全く縁もゆかりもないところから依頼されることがほとんど」と川嶋さん。例えば川嶋さんの語りの会や、学校での話の会で感銘を受けてファンになった人や先生が転勤して、新しい勤務地の周辺・団体に紹介するケースが多いという。兵庫県川西市のある老人会では、川嶋さんの語りの会が年中行事に組み入れられている。「それほど楽しみにしてくれている人たちがいるということは本当に嬉しい」と満面の笑顔で語る川嶋さん。

 近年、和歌山県橋本市の妙寺小学校はじめ京都府八幡市、奈良県香芝市の各小学校などで正規の国語の時間を割いて話をしてほしい−との依頼が増えている。正規の授業期間を割いてまで、なぜ川嶋さんに依頼があるのだろうか。

 それはまず、東北のずーずー弁を話す川嶋さんのユーモアたっぷりの語りは、おもしろくて貴重な方言の勉強になるからだ。また、民話や童話の中に登場するゴザ・七輪・草鞋(わらじ)・鋳掛け屋など、道具や用具などを通じて昔の暮らしを分かりやすく教えられるためだ。教育現場でもその必要性は指摘されながらも、先生方は日々の授業の準備に忙しくて時間的にも、とてもそんな方法で教えることはできない現状がある。

 また、川嶋さんの語りの魅力は様々な民話・童話の根幹にある戒めや教訓、さらには現代人が忘れかけている人間の素朴な温かみなどを、笑いと感動とともに教えてくれることだ。今日ではこうしたことを教えるべき世代の親たち自身が全く知らない、分からないケースが圧倒的に多いことが、大人世代からも語りの依頼、要請がある要因だろう。

●生駒郡斑鳩町法隆寺
 村上巌さん
●大阪府富田林市 
 川嶋敏子さん
●奈良市法蓮町 
 仏師 渡邊一空さん
●奈良県香芝市 
 安田勝紀・博子さん
●福岡県鞍手郡小竹町 
 村上哲史さん
知見探訪