第2の人生は“手すき和紙職人”
 和紙・木工房「紙木衣(しきごろも)」
 福岡県鞍手郡小竹町 村上哲史さん
                                      
 団塊世代の定年を「07年問題」と専ら社会的あるいは経済的影響が喧伝される昨今だが、当事者たちにとっては今後の人生をどう生きていくのか?の重要かつ切実な問題だ。そんな人たちにちょっと勇気を与える、人生の彼らより少しだけ先輩の手すき和紙作家がいる。定年前に生涯の生きがいを見つけ、第2の人生をスタートさせた村上哲史さん(福岡県鞍手郡小竹町、65歳)だ。

 “営業戦士”から転身、八女市で和紙づくり研修
 手すき和紙といっても、一般の人にはほとんど馴染みがないだろう。村上さんも大手
電器メーカーの関連会社で営業畑を歩んできた、伝統的な手すき和紙の世界などとは縁
遠い人だった。そんな“営業戦士”村上さんの和紙との出会いは1997年、55歳のとき。福岡県八女市の八女伝統工芸館で手すき和紙の実演を見てすっかり魅せられた。“企業戦士”として燃え尽きる人生ではなく、余力のあるうちに次の人生を考えたいと思っていた矢先のことだった−という。
 3人の子供は成人し、妻広子さんが賛成してくれたことで決断。1999年、早期退職優遇制度を利用して29年間勤めた会社を辞め、八女伝統工芸館に3カ月間研修に通い手すき和紙の基本から製作までの技術を修得。また2000年、和紙と原木を組み合わせた和風の電気スタンドを作ったらどうだろうと考えて1年間、自宅に近い田川市の田川高等技術専門学校で木工の基礎を勉強し、木工技術を修得した。そして、自宅に念願の和紙工房「紙木衣(しきごろも)」を開いた。

 原材料は毎年冬場に山中で自らの手で採取、保存
 ミツマタ、コウゾの原料は村上さん自身が毎年冬場に八女市の山中で採取、窯蒸しして皮をはぎ乾燥させて保存している。それだけ、自ら採取した材料にこだわっているのだ。ところが、昨シーズンは時間がなくて採取に行けず、今年は材料切れの心配があると、ちょっと表情をくもらせる村上さん。
 ではなぜ冬場、採取にいくのか?例えば春先はミツマタ、コウゾも新芽の季節。また周囲の様々な植物が芽吹いて採取作業がしにくい。その点、冬場は周りが枯れていて作業がしやすいという。ミツマタ、コウゾは生命力が強く、切り株を残しておけば、また芽吹いて生長してくる。したがって、地元産の原材料にこだわる村上さんにとっても安心して採取でき、原材料資源が枯渇する心配はない。

 自然のままの、面白い地元産原料にこだわる
 和紙の世界でも最近はコスト面の問題から、東南アジア産や韓国産などの輸入原材料を使用するケースがふえてきた。国産品と輸入品の違いはあるのだろうか?この点、村上さんは「輸入原料は製作工程で作業しやすいように加工されたものが入ってくる。だから、きれいすぎる。(地元・国産品のような)自然のままに近い、面白いものが取れにくい」と語る。
 「1点1点手作りの、他に2つと同じものがない。あそこに行かないと、ないというものを、ずっと作り続けていきたい」という村上さんにとって、自然のままに近い、面白い地元産のミツマタ、コウゾは欠かせないものなのだ。

 手作りの、自然の木を生かした“和紙”と“あかり”にこだわる
 村上さんがいま最もこだわっているのが、自然の木を生かした“和紙”と“あかり”だ。手すき和紙に魅せられ、その基本から製作までの技術を修得した頃、素朴に和紙と原木を組み合わせた和風の電気スタンドを作ったらどうだろう−という村上さん自身の発想の原点の商品だからだ。だからこそ、木工の技術修得にも取り組んだ村上さんだ。
“和紙”と“あかり”にこだわった作品群は、「創作和紙」と「手作り照明」をコンセプトとする村上さんならではのものだといえる。

 “絞り和紙”と屏風に力を入れていく、古米漉き込んだタペストリーも
 製作点数として多い商品は枕屏風・飾り屏風、タペストリーだ。屏風はもみじや竹を漉き込んだ、高さ40〜50cmから1m弱の商品。玄関やリビングで、前に飾ってあるものを引き立たせる商品として人気がある。タペストリーは古代米、赤米、黒米、緑米などを漉き込んだ商品で、玄関やリビングのインテリアグッズとして支持されている。
 今後とくに力を入れていきたいと考えているのが、和紙を絞って染める“絞り和紙”だ。押し花のバックに使うほか、ランチョンマット、コースターなど幅広い展開もできそうだ。現在これらの用途で使われている素材は機械化され、画一化されたものが多く面白味がない−と村上さん。それだけに期待は大きい。また、木工に和紙を貼った商品や、和紙をベースにした屏風類を増やしていく予定だ。

 ギャラリー「匠の家」開設、“ぬくもりの世界”が支持層広げる 
 村上さんは福岡市、田川市、春日市、北九州市など福岡県内のギャラリーでの個展はじめ木工、ガラス、陶器、和紙などを素材にした様々な共同展に出展してきている。その結果、すべての工程を一人でこなすため作れる点数には限りがあるが、手すき和紙と癒やしのあかりが作り出す“ぬくもりの世界”が、着実にファンを増やし、支持層を広げつつある。
 そんな村上さんにとって嬉しいことがある。4月にギャラリー「匠の家」を開設したのだ。「匠の家」は、ここのオーナーで木工作家の吉村嘉之氏(「ウッズマン」主宰)に誘われたものだが、着実にステップアップし続ける村上さんの新しい工房兼作品の常設展示場でもある。
●生駒郡斑鳩町法隆寺
 村上巌さん
●大阪府富田林市 
 川嶋敏子さん
●奈良市法蓮町 
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●奈良県香芝市 
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●福岡県鞍手郡小竹町 
 村上哲史さん
知見探訪