仏像は永遠のもの、納得できないものは造れない
 
 彫刻作品には様々なものがある。しかし、仏像となると誰もが簡単に制作できる対象ではない。その仏像づくりに人生の大半を懸けた人物がいる。現在、奈良市に住む、仏師・渡邊一空さんだ。その渡邊さんは「作品は私が死んでも残る。いわば永遠のもの。だから自分で納得できないものは造れない」と自身の作品づくりの姿勢を語る。

 一般に彫刻家、また仏像彫刻家とも呼称される人はいるが、「仏師」と称される人は極めて少ないのではないだろうか。渡邊さんは、その数少ない仏師の一人だ。渡辺さんは愛媛県出身。焼き物、木工芸などを学んだ後、彫刻家の故・澤田政廣氏の内弟子となり、仏像彫刻の世界へ足を踏み入れた。ここから渡辺さんの仏像彫刻との長いつきあいが始まったのだ。

 そして1975年、渡邊さんの一生を決定付ける出来事が起こる。曹洞宗管長大本山永平寺七十七世貫首・丹羽廣芳禅師より、仏師名「一空」を賜ったのだ。その知遇を得て、静岡県の師の寺、洞慶院の中に仏所を持ち、制作活動を続けることになった。以来約35年にわたって約300体の仏像を制作、全国の寺院に納めた。

 その後、2000年に奈良・斑鳩町で「一空仏所」を開き、制作活動の拠点を移した。ここでの制作分も含めると、手がけた仏像の数はざっと400体近くになるという。
渡邊さんの作品は、クスノキ、ヒノキなどの一本の木からつくる「一木造り」を主としている。そして最大の特徴は、サンドペーパーは絶対に使わない。すべて刃物で仕上げて完成することだ。これが“仏師 渡邊一空”の徹底したこだわりの部分だ。そして、これこそが一空作品の真骨頂なのだ。

 一般には鑿(のみ)で彫り、形を整えた後、何種類かのサンドペーパーで仕上げるのが普通だ。それでこそ、流れるような、あるいは滑らかな凹凸や曲線が可能になるのだが、渡邊さんは刃物でその仕上げまでやってしまうという。精細かつ巧みな彫刻技術なしには、成し得ない業だ。

●生駒郡斑鳩町法隆寺
 村上巌さん
●大阪府富田林市 
 川嶋敏子さん
●奈良市法蓮町 
 仏師 渡邊一空さん
●奈良県香芝市 
 安田勝紀・博子さん
●福岡県鞍手郡小竹町 
 村上哲史さん
知見探訪