苦難・試練乗り越えた、堅い“きずな”感じさせる共同作品展 
民話の世界の一コマを人形と舞台装置で  奈良県香芝市 安田勝紀・博子さん

 古材の木工品作家、安田勝紀さん(63歳)と妻でミニチュアクレイアート作家、博子さん(57歳)は3年前から年1回ぐらいの割合で夫婦作品展を開いている。安田さん夫妻の共同展は、単にそれぞれの作品を展示して見てもらうのではない。5年前に妻・博子さんが、NPO法人が企画した芸術作品コンテストでグランプリを受賞したのを機に、いまやライフワークとなりつつある民話・童話の世界の一コマを表現した、樹脂粘土でつくるミニチュア人形の作品を発表するにあたり、夫婦でその舞台・演出装置までを考え、制作するのだ。

 例えば森の中が舞台とすると、そこに棲んでいるであろうキツネ、ウサギ、木の葉の妖精などから小さな椅子に至るまで、人形はじめ様々な小物づくりまでするという。この舞台・演出装置をつくるのがご主人の勝紀さんだ。流木を丁寧に洗って様々に加工し、いろいろな舞台装置にしつらえ、古材や捨てられたものを蘇らせるのだ。これは勝紀さんが本来、木工品作家として基本としているものだ

 大抵は博子さんが注文を出し、勝紀さんがつくるのだが、ときには喧喧諤諤(けんけんがくがく)けんかしながら、2人でつくりあげるという。その集大成の世界が夫婦作品展=発表会というわけだ。夫婦なのだから当然のことかも知れないが、実に堅い“きずな”を感じさせる共同作品展だ。

 安田さん夫婦は平成元年、大阪で地上げに遭って、当時住んでいた大阪市東成区から現在の奈良県香芝市へ引っ越してきたのだが、9年前、勝紀さんが20歳代から勤務していた会社(大阪市城東区)が経営不振に陥ったため、突然リストラされた。一家の大黒柱の挫折だ。その結果、“うつ”状態に陥り、一時は“死”すらも頭をよぎったという勝紀さん。その後、博子さんらの支えもあって立ち直り、現在の「フーちゃん おじさんの工房」を営むに至っている。

 また博子さんはこの間、3年前に閉店した「フーちゃん おばちゃんのたこ焼き」店を10年間営業しながら、14年間にわたって勝紀さんの両親と自身の母親の3人の介護に明け暮れたという。
 本当に様々な苦難、試練に遭い、支えあいながらこれを乗り越えてきたのだ。そうした中で培われてきたのが、筋金入りの精神力とお互いを思いやる気持ちなのだろう。そして、何よりも素晴らしいのは、いまなお2人とも若々しくて明るいことだ。   
●生駒郡斑鳩町法隆寺
 村上巌さん
●大阪府富田林市 
 川嶋敏子さん
●奈良市法蓮町 
 仏師 渡邊一空さん
●奈良県香芝市 
 安田勝紀・博子さん
●福岡県鞍手郡小竹町 
 村上哲史さん
知見探訪